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カタカタカタ……
軒が道を進む音に、秀麗は後ろを振り返った。目に映るのは……予想通りの見知った軒。昔は三、四日ごとに我が家を訪れていたこともある藍家のもの。
ぼんやりと見上げていた秀麗は、思わずぽつりとその軒の主の名を呟いた。
「藍将軍……」
さして大きい声ではなかったのだが、乗っている人物には届いたようだ。
窓から覗いたのは男性にしては整った綺麗な顔。藍家四男――楸瑛。
「秀麗殿」
やや驚いたように声をかける顔は数日前、清雅に連れ出されたのを迎えに来てくれたときのまま見慣れたものなのに。懐かしいようなホッとしたような感じがして思わず涙腺が緩みかけ、秀麗は慌てて顔を上向かせた。
「どうしたんだい、こんな所へ」
楸瑛の問いに秀麗は用意していた答えを返す。
「牢の見回りとたまたま重なったんです」
そう、それは半分は本当。
「それより、藍将軍はどちらへ?」
聞くまでも無い。彼の決心と道の行く先を照らせばすぐに分かること。
「……藍州へね。」
当然の答え。だが胸にツキンと何かが突き刺さる。
「それと、もう『将軍』ではないんだけれど」
「そうでした、……楸瑛様」
いや、今気がついた振りをしただけ。その響きが手放せなくて。
「それではね。秀麗殿」
また前を向こうとする楸瑛に、秀麗は今度こそ行ってしまうと恐ろしくなって咄嗟に話しかけた。
「……っ貴方には軒より馬の方が似合ってましたね」
楸瑛が振り返ったのを見て安堵したものの、秀麗は自分の諦めの悪さに自嘲しかけた。
「なんでもありません……いろいろお世話になり、ありがとうございました。藍将軍」
堪えきれず後ろを向く。
呼称を変えないのは、最後に下らない事を言ってしまったのは、しがみつきたかったから。
離れていくのが耐えがたかったから。
いつもの自分らしくない。
けれど……
離れていく秀麗を見て、楸瑛は胸のどこかが僅かにツキリと痛むような感じがした。
と、秀麗の裏行、蘇芳が近づいてくるのが見える。
「おじょーさん、今回の見回りわざと順路変えて遠回りしてたんだけど」
はっと楸瑛は視線を離れていく背中に戻した。
「どーしてだろーね」
軒が道を進む音に、秀麗は後ろを振り返った。目に映るのは……予想通りの見知った軒。昔は三、四日ごとに我が家を訪れていたこともある藍家のもの。
ぼんやりと見上げていた秀麗は、思わずぽつりとその軒の主の名を呟いた。
「藍将軍……」
さして大きい声ではなかったのだが、乗っている人物には届いたようだ。
窓から覗いたのは男性にしては整った綺麗な顔。藍家四男――楸瑛。
「秀麗殿」
やや驚いたように声をかける顔は数日前、清雅に連れ出されたのを迎えに来てくれたときのまま見慣れたものなのに。懐かしいようなホッとしたような感じがして思わず涙腺が緩みかけ、秀麗は慌てて顔を上向かせた。
「どうしたんだい、こんな所へ」
楸瑛の問いに秀麗は用意していた答えを返す。
「牢の見回りとたまたま重なったんです」
そう、それは半分は本当。
「それより、藍将軍はどちらへ?」
聞くまでも無い。彼の決心と道の行く先を照らせばすぐに分かること。
「……藍州へね。」
当然の答え。だが胸にツキンと何かが突き刺さる。
「それと、もう『将軍』ではないんだけれど」
「そうでした、……楸瑛様」
いや、今気がついた振りをしただけ。その響きが手放せなくて。
「それではね。秀麗殿」
また前を向こうとする楸瑛に、秀麗は今度こそ行ってしまうと恐ろしくなって咄嗟に話しかけた。
「……っ貴方には軒より馬の方が似合ってましたね」
楸瑛が振り返ったのを見て安堵したものの、秀麗は自分の諦めの悪さに自嘲しかけた。
「なんでもありません……いろいろお世話になり、ありがとうございました。藍将軍」
堪えきれず後ろを向く。
呼称を変えないのは、最後に下らない事を言ってしまったのは、しがみつきたかったから。
離れていくのが耐えがたかったから。
いつもの自分らしくない。
けれど……
離れていく秀麗を見て、楸瑛は胸のどこかが僅かにツキリと痛むような感じがした。
と、秀麗の裏行、蘇芳が近づいてくるのが見える。
「おじょーさん、今回の見回りわざと順路変えて遠回りしてたんだけど」
はっと楸瑛は視線を離れていく背中に戻した。
「どーしてだろーね」
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もともと彼は藍家で、私は紅家で。
王家に不遜な二家が、結ばれるはずなどなかった。
彼は藍州へ戻り、藍家を捨て、帰ってきた。
王への絶対の忠誠と、珠翠への想いを手に握り。
絶望的な距離が、縮まるようにしてさらに開いた。
私が想う程彼は私を想ってはいない。
よく知る元気な少女、その程度。
もし、黙ったまま放っておけば
この想いは、苦しさは、
何時か、何処かへ、
消えていくの……?
王家に不遜な二家が、結ばれるはずなどなかった。
彼は藍州へ戻り、藍家を捨て、帰ってきた。
王への絶対の忠誠と、珠翠への想いを手に握り。
絶望的な距離が、縮まるようにしてさらに開いた。
私が想う程彼は私を想ってはいない。
よく知る元気な少女、その程度。
もし、黙ったまま放っておけば
この想いは、苦しさは、
何時か、何処かへ、
消えていくの……?