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陽がやっと山から顔を出したが、まだ辺りは寒い。
だが、秀麗は息が上がり、むしろほてっていた。
「だいぶ上達してきたね。」
「そうでしょうか。あまり進歩ない気がしますが…」
「そうでもないよ。あくまで非常時の護身なのだし。」
そう、秀麗は昨日から楸瑛に頼んで簡単な護身術を教えてもらっている。
「秀麗殿は私がちゃんと守るしね。」
相変わらずの科白と綺麗な笑顔に、秀麗は少し困ったような笑みを浮かべたが、すぐ気を引き締めて、自分より高い位置の顔を見上げる。
「もう一回お願いします。」
「ずっと乗馬なのに早起きして、疲れてるんじゃないかい?」
「大丈夫です」
とはいってもだいぶ疲れている様子がうかがえる。楸瑛はしばし考えて、あと一回ならと返答した。
「お願いします!」
ピンッと空気が張る。
右、左、右。
秀麗は身軽にかわしていく。もともと反射神経は良かったうえ、覚えが速いため身のこなしが確実に上手くなっている。が。
「痛っ」
かわしているうちにすべって転んでしまったらしい。
「すまない。大丈夫かい?」
慌てて楸瑛は手を差し伸べた。秀麗の手をとって立ち上がらせる。が、力が強かったらしい。
「きゃっ」
勢いで、二人は抱き合う形になってしまった。
――こんなにも、儚い
楸瑛は意図せず抱きしめてしまった秀麗に、思わずそう感じた。
――こんなにも小さな少女が、朝廷の官吏を押し切り、自身を恨んでさえいる人々を助けようとしている
心に積もる何かには気づいていた。彼女はどこにでもいるような少女だが、その理想は高く。
思わず、腕に力がこもった。
――左羽林軍将軍、王のため命を散らす、武官……
勢いで抱きついてしまった楸瑛の体。
普段は文官のような服装と優雅な動作で忘れがちだけれど、大きくしっかりとした体つき。剣を握る者特有の手。
――武力で人を抑えるのは簡単。でも、誰も傷つけたくない。民を、武官も……藍将軍も。だから、私が行く。不安がないなんて嘘だけれど、誰も、傷つけさせやしない
どちらからともなく離れる。けれど、静かに互いを見つめる視線は外されず。
しかしふと、秀麗は煙の上がってきた空き地に目を移した。
「もうすぐ、朝食ですね。行きましょう。」
楸瑛は立ち尽くして、歩き出した秀麗をしばらく見ていたが。
「秀麗殿」
何故か思わず呼び止めてしまった。振り向く秀麗にまた言葉を詰まらせてしまったが、なんとか言葉を搾り出す。
「気をつけて……行ってきなね……」
秀麗は、いつもと違うどこか不安そうな様子に目を見張ったが、にっこり微笑むと応えた。
「そうします。」
その微笑にはっと気を取り戻し、楸瑛はやっと動きだした。
そして、秀麗のところまで行くと……ひょいっと横抱き、いわゆるお姫様抱っこにして食事場まで歩き出す。
「ひ、ひとりで歩けますよ!」
「疲れただろう?まあいいじゃないか」
そういってにっこりと笑う楸瑛はもうすっかり元どおりで。早鐘を打つ胸を沈めながら、けれどまあいいかと秀麗はそのまま食事場へむかうのだった。
だが、秀麗は息が上がり、むしろほてっていた。
「だいぶ上達してきたね。」
「そうでしょうか。あまり進歩ない気がしますが…」
「そうでもないよ。あくまで非常時の護身なのだし。」
そう、秀麗は昨日から楸瑛に頼んで簡単な護身術を教えてもらっている。
「秀麗殿は私がちゃんと守るしね。」
相変わらずの科白と綺麗な笑顔に、秀麗は少し困ったような笑みを浮かべたが、すぐ気を引き締めて、自分より高い位置の顔を見上げる。
「もう一回お願いします。」
「ずっと乗馬なのに早起きして、疲れてるんじゃないかい?」
「大丈夫です」
とはいってもだいぶ疲れている様子がうかがえる。楸瑛はしばし考えて、あと一回ならと返答した。
「お願いします!」
ピンッと空気が張る。
右、左、右。
秀麗は身軽にかわしていく。もともと反射神経は良かったうえ、覚えが速いため身のこなしが確実に上手くなっている。が。
「痛っ」
かわしているうちにすべって転んでしまったらしい。
「すまない。大丈夫かい?」
慌てて楸瑛は手を差し伸べた。秀麗の手をとって立ち上がらせる。が、力が強かったらしい。
「きゃっ」
勢いで、二人は抱き合う形になってしまった。
――こんなにも、儚い
楸瑛は意図せず抱きしめてしまった秀麗に、思わずそう感じた。
――こんなにも小さな少女が、朝廷の官吏を押し切り、自身を恨んでさえいる人々を助けようとしている
心に積もる何かには気づいていた。彼女はどこにでもいるような少女だが、その理想は高く。
思わず、腕に力がこもった。
――左羽林軍将軍、王のため命を散らす、武官……
勢いで抱きついてしまった楸瑛の体。
普段は文官のような服装と優雅な動作で忘れがちだけれど、大きくしっかりとした体つき。剣を握る者特有の手。
――武力で人を抑えるのは簡単。でも、誰も傷つけたくない。民を、武官も……藍将軍も。だから、私が行く。不安がないなんて嘘だけれど、誰も、傷つけさせやしない
どちらからともなく離れる。けれど、静かに互いを見つめる視線は外されず。
しかしふと、秀麗は煙の上がってきた空き地に目を移した。
「もうすぐ、朝食ですね。行きましょう。」
楸瑛は立ち尽くして、歩き出した秀麗をしばらく見ていたが。
「秀麗殿」
何故か思わず呼び止めてしまった。振り向く秀麗にまた言葉を詰まらせてしまったが、なんとか言葉を搾り出す。
「気をつけて……行ってきなね……」
秀麗は、いつもと違うどこか不安そうな様子に目を見張ったが、にっこり微笑むと応えた。
「そうします。」
その微笑にはっと気を取り戻し、楸瑛はやっと動きだした。
そして、秀麗のところまで行くと……ひょいっと横抱き、いわゆるお姫様抱っこにして食事場まで歩き出す。
「ひ、ひとりで歩けますよ!」
「疲れただろう?まあいいじゃないか」
そういってにっこりと笑う楸瑛はもうすっかり元どおりで。早鐘を打つ胸を沈めながら、けれどまあいいかと秀麗はそのまま食事場へむかうのだった。
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