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外はすっかり闇に包まれ、細やかな雨粒が静寂の中を降りてゆくのみ。
さすがに人気が無くなる夜の回廊を歩いていると、前を青年が歩いているのを見つけた。
が、書簡を抱えてどこへ行くのかと思えばどんどん外朝のはずれへ近づいていく。
歩調を速め秀麗はその青年に追いつくと話しかけた。
「あの、絳攸様ですか」
「っ、ああ、秀麗か。どうした」
絳攸の顔を覗き込んだ秀麗は驚きに目を見張った。
目の下には相当年季の入った隈があり、表情で繕っているものの疲労がありありと出ている。
「お仕事が忙しいんですか?」
「まあ、な。だが一段落ついたところだ」
「府庫の仮眠室までお供しましょうか」
「……ああ、頼む」
しかし本当に疲れているようで、しっかり歩いてはいるが時折フラッと体が傾く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
そうは言っても応えはあまり覇気がない。外朝の地図を頭に浮かべ、一番近い部屋を探す。
――私の部屋ね……
アレを考えるとあまり薦められないが。しかし早く休んだ方がいいだろう。
「その、早く休まれた方がいいと思いますから私の部屋を使いますか? 多分一番近いかと」
「すまないな」
方向を変え、暫く歩く。するとすぐに自室が見えてきた。
中に入り、仮眠用の布団を敷く。……清雅に見立てひどく八つ当たりした布団に師を寝かせるのもどうかと思ったが仕方あるまい。
「子守唄に二胡でも弾きましょうか」
そう言って秀麗はたまたま持ってきていた二胡を手に取った。
弓が滑りだし、暖かく優しい旋律が流れ出る。秀麗は眠りに落ちてゆく絳攸の寝顔を眺め、頬が緩むのを感じた。
――懐かしい、心地よい空間
ここまで穏やかな気分になったのは随分久しぶりの気がする。
……そして、何時しか秀麗もまどろみ、夢の世界へと旅立って行ったのだった。



その日、泊り込みで調べ物をすることにした清雅は府庫にいた。しかし思いのほか早く終わったため回廊を自室へと歩いていく。
角を曲がると、途端に二胡のやわらかな旋律に包まれた。その音に誘われるように近くの一室へと向かう。
戸は閉まっていたが鍵はかかっていない。そっと開け中に入ると、秀麗が二胡を弾いていた。気づいた様子は……無い。
完全に寝たのを確認し二胡を置いた秀麗の顔はとても優しくて。清雅は気に入らなかった。
声をかけようとした途端、秀麗の首がカクッとなったかと思うと絳攸の腹部に被さるように倒れた。随分眠かったらしく、熟睡体勢だ。
そろっと近づいてゆく。目を覚ます気配は無い。すぐ傍まで来ると、布団で眠る人物が見えた。
――李吏部侍郎、か
親しい間柄にあったことは知っている。が、寄り添い眠る姿はまるで恋人のようだ。
――ふんっ、タヌキの教育も成果を上げていないようだな
まあ女嫌いで有名で鉄壁の理性と評判の師匠に、そっち方面で気を張りやしないのだろうが。
秀麗は無防備な寝顔を晒して眠り込んでいる。
と、唐突にその安らかな寝顔が険しくなり、眉間にしわが寄った。
「……せ……が」
忌々しげに呟く。それを聞き取り清雅は軽く目を見張ったが、やがて口の端を吊り上げるようにして笑った。
「……おもしろい」
李侍郎を見つめていた優しいまなざしを思い出す。敬愛する師の傍らで安らかに眠っているかと思えば。夢に見ているのは……
まあ、布団が悪いのかもしれないが。この女は布団に八つ当たりする声が、立ち聞きするまでも無く回廊に響いているのを知っているのだろうか。
清雅は秀麗の傍にかがむと、零れた髪を掬い上げ、口付けた。
「せいぜい足掻け。いつか必ずズタズタにして叩き落してやる」
そして立ち上がり、倣岸な笑みを残して自室へと部屋から出て行くのだった。
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