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――藍様?
問い掛けるような艶やかな声にやっと我に返る。その事に驚き、僅かに戦慄した。
窺うような声はしかし欠片も気遣う色などない。むしろ嘲りすら感じられる。
――そんなに見つめてなんだい?
軽く返したら、座敷で呆けといてよく言うねと一蹴された。
それは、そうだ。話している最中に突然黙り込むのはどう考えても不自然である。我ながら馬鹿げた返しだ。
彼女と言葉を交わし酒を酌み交わして、その最中。
しかし。
自分の目が映すのは彼女であり、彼女でなかった。自分でも、気づかぬほど自然に。自分の思考は一人の少女に満たされていた。
少女の語りかける口調、前を見据える眼差し、皆に向けられる笑顔、小柄な体躯……思い浮かべた姿、その全てが私を魅了する。
こんなにも、一人の少女に惹かれるなんて。かつて兄の嫁に横恋慕し、王都に逃げ出した自分が。可笑しくなる。
けれど、少女もまた自分のものにはならないのだろう。
目の前で睨む彼女、だけではない。いろんな人から愛される少女、そして皆を愛する少女。自分が少女のたった一人になれるとは思えない。仕える優しい王を、裏切ることも。
ふと視線を上げると、月が見える。秀麗殿には陽のほうが似合うかな、と思いながら、全ての想いを断ち切るように、楸瑛は、目を閉じた
問い掛けるような艶やかな声にやっと我に返る。その事に驚き、僅かに戦慄した。
窺うような声はしかし欠片も気遣う色などない。むしろ嘲りすら感じられる。
――そんなに見つめてなんだい?
軽く返したら、座敷で呆けといてよく言うねと一蹴された。
それは、そうだ。話している最中に突然黙り込むのはどう考えても不自然である。我ながら馬鹿げた返しだ。
彼女と言葉を交わし酒を酌み交わして、その最中。
しかし。
自分の目が映すのは彼女であり、彼女でなかった。自分でも、気づかぬほど自然に。自分の思考は一人の少女に満たされていた。
少女の語りかける口調、前を見据える眼差し、皆に向けられる笑顔、小柄な体躯……思い浮かべた姿、その全てが私を魅了する。
こんなにも、一人の少女に惹かれるなんて。かつて兄の嫁に横恋慕し、王都に逃げ出した自分が。可笑しくなる。
けれど、少女もまた自分のものにはならないのだろう。
目の前で睨む彼女、だけではない。いろんな人から愛される少女、そして皆を愛する少女。自分が少女のたった一人になれるとは思えない。仕える優しい王を、裏切ることも。
ふと視線を上げると、月が見える。秀麗殿には陽のほうが似合うかな、と思いながら、全ての想いを断ち切るように、楸瑛は、目を閉じた
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