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秀麗が後宮に上がった設定楸秀。劉秀主義の方、すみません。
もう少し直します。


「……楸瑛様」
静か過ぎるほど静かな室に響くのは驚く程冷たい声。
「お帰り下さい」
解きかけていた黒髪がさらりと背中に流れる。しかし秀麗は振り向きさえしない。
「つれないね」
「ふざけないで……っ」
「どちらが?」
予想外に近くで囁かれた声に思わず肩を震わせる。ため息とも笑いともつかぬ短い息を吐いて楸瑛は秀麗の伸びた前髪を掬った。湿っている。
「此処は王の妃の部屋です。一武官に立ち入れる場所ではありません」
横髪を払おうとすれば手を叩かれたが、一瞬月の光に浮かんだ横顔は何かを堪える様で
――うっすらと濡れていた。
「ならば何故人を呼ばないのですか」
「……今近くに人は居りません」
「警備も薄かったですしね。危ないですよ」
「貴方の仕事でしょう」
僅かに拗ねたような声に楸瑛は苦笑を零すとからかうように続けた。
「そうですね。では……何故私だと分かったのですか?」
声をかける前に彼女は気がついていた――別段気配を消していたわけでもなかったけれど少し驚いた。
「……っ」
秀麗はようやくちらとだけ楸瑛を見上げた。澄んだ黒い瞳が宙を泳ぐ。
「……足音と、香……」
珍しく小声で呟かれた言葉をしかし漏らさず聞き取って、楸瑛は瞠目した。堪らず結局俯いた秀麗の背中を抱きしめる。
「っ楸瑛様!」
身を固くするのが分かったが楸瑛はさらにきつく抱きしめた。
「可愛い事言うから」
やわらかい髪に顔をうずめれば、風に冷えた体に仄かな熱が上がってきて溶けてゆく。ゆるゆると、秀麗の体から力が抜けた。
「そう何度も何度も会えば覚えてしまいます……」
ぽつりと零れた言葉に楸瑛が笑う。
「でも楽しみにしてたのでしょう?」
十三姫が手配してくれて、楸瑛や絳攸、静蘭達と話せる時間を確かに秀麗は楽しみにしていた。けれど何か、親愛とは、敬愛とは、違うものに一瞬触れてしまったから。
「確かに楸瑛様も絳攸様も好きです。劉輝も静蘭も……私には区別ができません。けれど劉輝が望み私は応えて、私は貴妃となりました。私は劉輝を選びました」
「愛しています」
「……」
再び戻った静けさに楸瑛の腕を解こうと手をかけながら秀麗はため息混じりで声を出した。
「戻って下さい。私と違って仕事ができるんですからきちんとして下さい」
「心配しなくても主上はちゃんと警備しているよ。主上だって私の大切な主君だから」
「主君のものに手を出していいんですか」
「でも秀麗殿だけは、諦めるなんて無理だよ」
腕にかけられた手をとりそっと、口付けた。
「今の状況分かってますか?」
片腕を這わせ、力を込める。
「楸瑛様っ!?」
「冗談です」
ぱっ、と腕を解けば秀麗は勢いよく振り向き、睨まれた楸瑛は小さく両手を挙げた。
「失礼しました。また……来ます」
室を出て振り返り、跪拝する。
「好きです、秀麗殿」
微笑し透る声で告げた楸瑛の後姿を、秀麗はただ黙り、見送った……
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水音
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非公開
自己紹介:
日本と誕生日一緒な女子。そこらへんにいる学生ですが彩雲国とヒバツナとサンホラを与えると異常行動を起こす可能性があります。
危険物質→楸秀、ヒバツナ、サンホラ
準危険物質→角川ビーンズ、NARUTO、京極夏彦、遙か、新体操
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