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一面に広がる青い芝と、手入れの行き届いた庭木。春の瑞々しい生気に満ちたその庭には、ぽつんとひとつ石が立っていて。傍らにはふたり、立っていた。
石に刻まれるのは、その下で眠る人を讃える文章。
――最上治と称えられし名君紫劉輝、此処に眠る……


「劉輝、貴方は本当に素晴らしい王様だったわ……」
しっかりと官服を着込み、年を経ても曲がることのない真っ直ぐな背筋で前に立つ、妻。
「本当に、ありがとう」
墓石を優しく、ずっと撫でていて。
彼女は、生涯寄り添う番に私を選んでくれたけれど。でも、彼女がどれほど王――劉輝を想っていたか、知っている。生涯を王の官吏として、揺らぐことなく味方であり続け。ついには初の女性官吏から宰相にまで登り詰めた。まさに一生を王に捧げ尽くした彼女。
そして、王がどれほど彼女を愛していたかも。ずっと隣で見ていたから、とてもよく分かっていた。
結局、彼は王として十三姫を娶り、彼女は私と結婚して。
王は祝福してくれ、その後も変わらず一緒に、最期まで側で支え合い国の統治に尽くした。

優しい彼は、満足して逝けたのだろうか。過ごした時はとても楽しく充実していて。けれど貰った優しさを、返せていたのだろうか。

ふと、温もりを感じた。見下ろせば妻に抱きしめられていた。と、ぽたりと雫が落ちる。そうして初めて頬を伝っていた雫の存在に気がついた。
「劉輝、楽しかったと思うわよ」
妻の、声。心を見透かされたようで、はっと目を見開いた。
「兄しかいなかった世界に、いろんな人が入ってきて、こんなに愛されて、自分と、支えてくれた人の努力で最後には全ての民に広く愛された」
だから、と老いても変わらぬ強い目で見上げて。
「今は笑って、お疲れ様っ、て」
妻の目にも、涙がたまっている。けれどそれを拭って、墓石を見据えた。
「沈んだ顔なんて見せてられない。次の王様にしっかりこの国を引き継いでもらわないと」
ふっと、優しい笑みを浮かべた。つられるように、口元が緩む。
……そう、残された私たちに今できるのは、劉輝が作り上げた平和の国を守り託すこと。
そっと瞑目し、一呼吸してしっかりと目を開け。


「ありがとうございました。……おやすみなさい、主上」
後は、私たちと貴方の公子に、お任せを。ありったけの尊敬と親愛を込めて、心からの笑顔を我が主上に捧ぐ。


石の隣に植えられた、桜。その下で王の愛した二胡の音が、ゆっくりと、葬送の曲を紡ぎ出した……
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日本と誕生日一緒な女子。そこらへんにいる学生ですが彩雲国とヒバツナとサンホラを与えると異常行動を起こす可能性があります。
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