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本の上に、紅葉が落ちた。
ふと、外を見れば紅葉が真っ赤に染まっていた。
もう秋だったかとぼんやり思って、それからああ、とやっと気がついた。
御史台から府庫までに紅葉はない。風景も違う。

――道を間違えた……

貴妃やら侍童やら進士やらで宮城はほぼ完璧に把握できていると思ってたのだけど。
静蘭は羽林軍の訓練で家を空けているし、父様も泊り込みというから昨日は遅くまで溜まっていた仕事を片付けていて……それでそのまま仮眠室に泊まってしまったのだが、案外効いてるようだ。
というより、考え事をしていたら回廊を曲がり損ねたのだろうか。

とりあえず迷ってる場合ではない。立ち止まり最短経路を弾き出して、再び歩き出そうとした、その時。
長身の武官が見えた。武官服は見慣れないけれど、見知った顔。
「楸瑛様」
「秀麗殿……お疲れ様」
苦笑交じりの微笑み。そんなに顔に出ているのだろうか。
いや、それより。自分の無意識に呆れた。そう、そういえばこの先は楸瑛がこの頃警備にあたっている区域だ。
無意識に足を運んでいた事にも呆れるが、ちゃっかり場所を確認している自分も自分だった。

「ところで、もし仕事が一段落するようなら一緒に昼ご飯にしないかな」
軽い自嘲からはっと我に返る。折角の誘いだけれど仕事はまだ残っている。逡巡していたら、抱えていた本が持ち上がった。
「これは府庫のかい?手伝うよ」
「あ、自分で運びますから!」
「秀麗殿と一緒に歩きたいんだ。まさか女性に重い物を持たせて手ぶら、という訳にはいかないだろう?」
笑顔で制された。
「……ありがとうございます」
それでも上から数冊とって抱えると、律儀だねと苦笑された。


他愛の無い話をして歩けば、あっという間に府庫についてしまった。珍しく父はいなかったので棚に戻しておく。
書架を抜ければ入り口で楸瑛は待っていて、折角なのでやはり一緒にご飯にしようと思った。
泊り込みだったのでお弁当はなく、仕方ないので庖厨所で折詰をもらった。滅多に使わないから……進士以来だろうか、懐かしい。
空き室に入って、向かい合い座ると折詰を開く。よく考えれば朝夜と食べていない。楸瑛の方もお腹は空いていたようで、箸を取ると自然会話も少なく食べていた。
しかしちらと見上げれば、さすがというか食事も優雅な所作。本当に綺麗で、見蕩れていたら、折詰を食べ終えてもうひとつ包みを取り出した。見たところ、お弁当。
「何方が作ったんですか?」
女官からもらったりするのだろうか。聞いてみたら、予想外に棘のある口調になってしまって驚いた。
「嫉妬してくれるのかい?」
笑うかと思ったらやけに優しい顔をしていて、思わずドキリとする。僅かに視線を逸らした。
「誰かからもらったんですか」
重ねて問えばぶっきらぼうになってしまった。本当に思ったことを隠すのが下手過ぎる。
と、視線を戻せば楸瑛はにかむ様にやや笑った。
「ああ、自分で作ったんだよ。二つ買うのはさすがに、高くて……」
苦笑するような、照れたような、なんとも言えない顔をして、でもそれはすぐにいつもの微笑みに戻る。
「秀麗殿の料理には到底及ばないけどね、ひとつ食べるかい?」
焼売をひとつ、箸で挟み差し出された。
藍家直系の楸瑛様がまさか渡し箸などしないだろう。

「…………」
口を開けた。はい、と言って楸瑛が焼売をコロンと落とす。咀嚼しながら、でもひたすら恥ずかしくて、美味しかったと思うけれど実際ほとんど味なんて分からなかった。
「可愛いね」
楸瑛はと言えば片肘付いてのほほんと見ていた。なんて余裕。


「……ご馳走様でした」
微妙に俯いてしまうのは仕方ないだろう。と、楸瑛の手が頬に触れ、顔を上向かせられる。一瞬にこ、と笑うと解れ始めていた髪を掬われた。
「髪、直してあげる」
何か言う間もなくそのまま髪紐を解かれる。後ろへまわると手櫛を入れ、編み結い上げられていく感覚。
なんだか気持ちよくてそのまま厚意に甘えていたら、すぐ結い終わった。
「櫛があればよかったんだけど……できたよ」
「慣れてますね」
なんだか情けない。そこまで身なりをおざなりにしているつもりはなかったのに、男性陣の方が上手いなんて。
見れば楸瑛は曖昧な笑みを浮かべていた。
「清雅くんには負けるかもしれないけどね」
「いいえ楸瑛様の方が好きです」
即答。してから省略の結果に気がついた。思わず顔が火照る。
振り返って見ると楸瑛は涼しい顔で横向いていたけれど、頬がほんのり染まっていた。
無言。


堪らなくなって、ふと気がついた。
「あ、すみませんっそろそろ仕事戻らないとっ」
手早くごみを片付けて戸を開ける。
「いろいろとありがとうございました!また機会があればご一緒させてください!」
部屋を飛び出ようとして、袖をつかまれた。
危うく転びかけて、慌てて支えられる。が、振り返れば彼も咄嗟の行動だったらしくしばらく沈黙してから、やっと口を開いた。
「次は、久々に秀麗殿の手料理が食べたいな」
珍しく少々ぎこちない言葉。だけど笑って、はい、と答えた。


そうしてまた、仕事場へと戻る。心なしか足取りが軽い。
またいつか、いやできることなら明日も、明後日も、毎日、
一緒に過ごせたらいいのにと、願う自分がいた。
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日本と誕生日一緒な女子。そこらへんにいる学生ですが彩雲国とヒバツナとサンホラを与えると異常行動を起こす可能性があります。
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