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「武力は、使いません。私が行きます」
はっきりとした意思。何年経っても変わらない強い想い。
守ってあげたいのに。あらゆる妨げを、振り払ってやる力があるのに。
けれど彼女の望む、誰も傷つけぬ解決とは、違うから。
いや、誰も、に私も含まれるから。

「行ってきます」
守りたいと、願うのに。彼女の前で、盾となり剣となりたいのに。
そんな頑固で優しい彼女が好きだから。
できる限りの防衛を張って、でも送り出すしかないのだろうか。


彼女はいつだって私の前に出て、力を持たぬ腕でけれど困難を払い除け人々に手を差し出す。
彼女はずっと前にいて、私は背中を見るばかりで、追いかけても、ほんの僅かな助けにしかなれない。
もっと助けたいのに守りたいのに前に在りたいのに。

せめて。隣で、並んで。手を繋ぎともに戦えればいいのに。
支え合えれば、いいのに。
それも、許されないのか。


彼女にとって、私は、守るべき大勢の一人に過ぎないのだろう。
頼ってほしい。もっと。
信用して、分かち合って、ともに戦いたい。

けれどそれは、自分から駆け寄らねば埋まらぬ距離。
この想いが、本当なら。自分に、確かと誓えるのなら。


今度こそ、追いかけよう。
無茶な作戦、けれど彼女が望むなら。
隣で、助けるために。
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濃紺の空は雲ひとつなく、瞬く星々は近くに見えて。途方もなく大きな夜空を横切るのは、ほの明るく浮かび上がる天の河。たくさんの小さな星々が寄り添い浮かぶ、淡く優しい光の河。
幼い頃から何度も見上げているのに、何度だって魅かれてしまう、美しい夜空。


庭院で空を見上げていたらふと、とす、と肩に小さな重みと温もりを感じる。
驚いて振り返れば、背の君が屋敷の明かりで朧げに見えた。気配も足音もまるでしなかったのに。
「すまないね、熱心に見てたから……夜風は冷たいし風邪ひかないようにね」
肩に掛けられたのは上衣だった。まだ温もりが残っている。
「楸瑛様こそそんな薄着じゃ風邪ひきます」
慌てて返そうとすれば笑顔でもう一度肩に掛けられた。
「じゃあ私は秀麗に温めてもらうから」
背中から腕を回され抱きしめられる。諦めてありがたく借りることにして、彼を振り返れば空を見上げていた。
「綺麗だね」
優しい微笑み。思わず見蕩れていたら、視線を下ろした彼と目が合った。
「秀麗には負けるけど」
綺麗な微笑みのままさらっと言って口づけられる。頬が熱くなって咄嗟に顔を背けたけれど、彼の手が頬に触れた。
「顔、熱いよ」
「楸瑛様の手が冷たいだけです」
楽しげな彼の声に、言い返してみたら一瞬体が離れた。振り返る前に体が浮かぶ。いや、抱き上げらた。
「じゃあ温めてもらおうかな」
にこ、とやっぱり綺麗な笑顔を浮かべてそっと囁かれる。
庭院を横切るとそのまま屋敷に入っていく。何となく行き先を察知して青ざめた。明日は出仕しないといけないのに。
「明日は普通に仕事がありますよねっ!?」
「織姫は恋に夢中なあまり仕事をほったらかしてしまったけれど、私のお姫様は仕事に熱心なあまり夫をほったらかすからね。神様だって怒りはしないよ」
うっと詰まる。心当たりは星の数程あった。それでも上目遣いに見上げれば、彼はふっと顔を緩めて。
「天の川には、小さくて似た星が本当にたくさん集まってるけど、織姫と彦星は互いがちゃんと見つかるんだね」
歩みが止まったと思ったら寝室についたようだった。部屋に歩み入りそっと寝台に下ろされる。彼は前かがみになった体勢のまま敷布に手をついて、優しく口付ると笑った。
「何処にいたって私は秀麗を見つける自信があるし、たとえ滅多に会えなくったってやっと出会えた姫をずっと愛するけどね。帰ってきたと思ったら星ばかり見上げて……嫉妬もするよ」
思わずくすっと笑ってしまった。
「星に嫉妬ですか?………天の河に、願い事をしてたんです」
一瞬迷って、でも目を瞑ってもう一度、今度は背の君に向けて唱えた。

「この世で一番愛してる、我が背の君とずっと一緒にいられますように」


見ものだった。光を遮るようにかがんでいるのがもったいない。目を見張って僅かに赤面している。けれど可愛いと思う間もなく片手で顔を覆うといつもの微笑を取り戻してしまった。
「私も、秀麗に。永久に一緒にいられますように」
きっと、今日一番の綺麗な笑顔。
そしてどちらからともなく互いの唇を重ねると、互いが共にある幸せに、抱き合った。

一面に広がる青い芝と、手入れの行き届いた庭木。春の瑞々しい生気に満ちたその庭には、ぽつんとひとつ石が立っていて。傍らにはふたり、立っていた。
石に刻まれるのは、その下で眠る人を讃える文章。
――最上治と称えられし名君紫劉輝、此処に眠る……


「劉輝、貴方は本当に素晴らしい王様だったわ……」
しっかりと官服を着込み、年を経ても曲がることのない真っ直ぐな背筋で前に立つ、妻。
「本当に、ありがとう」
墓石を優しく、ずっと撫でていて。
彼女は、生涯寄り添う番に私を選んでくれたけれど。でも、彼女がどれほど王――劉輝を想っていたか、知っている。生涯を王の官吏として、揺らぐことなく味方であり続け。ついには初の女性官吏から宰相にまで登り詰めた。まさに一生を王に捧げ尽くした彼女。
そして、王がどれほど彼女を愛していたかも。ずっと隣で見ていたから、とてもよく分かっていた。
結局、彼は王として十三姫を娶り、彼女は私と結婚して。
王は祝福してくれ、その後も変わらず一緒に、最期まで側で支え合い国の統治に尽くした。

優しい彼は、満足して逝けたのだろうか。過ごした時はとても楽しく充実していて。けれど貰った優しさを、返せていたのだろうか。

ふと、温もりを感じた。見下ろせば妻に抱きしめられていた。と、ぽたりと雫が落ちる。そうして初めて頬を伝っていた雫の存在に気がついた。
「劉輝、楽しかったと思うわよ」
妻の、声。心を見透かされたようで、はっと目を見開いた。
「兄しかいなかった世界に、いろんな人が入ってきて、こんなに愛されて、自分と、支えてくれた人の努力で最後には全ての民に広く愛された」
だから、と老いても変わらぬ強い目で見上げて。
「今は笑って、お疲れ様っ、て」
妻の目にも、涙がたまっている。けれどそれを拭って、墓石を見据えた。
「沈んだ顔なんて見せてられない。次の王様にしっかりこの国を引き継いでもらわないと」
ふっと、優しい笑みを浮かべた。つられるように、口元が緩む。
……そう、残された私たちに今できるのは、劉輝が作り上げた平和の国を守り託すこと。
そっと瞑目し、一呼吸してしっかりと目を開け。


「ありがとうございました。……おやすみなさい、主上」
後は、私たちと貴方の公子に、お任せを。ありったけの尊敬と親愛を込めて、心からの笑顔を我が主上に捧ぐ。


石の隣に植えられた、桜。その下で王の愛した二胡の音が、ゆっくりと、葬送の曲を紡ぎ出した……
――藍様?
問い掛けるような艶やかな声にやっと我に返る。その事に驚き、僅かに戦慄した。
窺うような声はしかし欠片も気遣う色などない。むしろ嘲りすら感じられる。
――そんなに見つめてなんだい?
軽く返したら、座敷で呆けといてよく言うねと一蹴された。
それは、そうだ。話している最中に突然黙り込むのはどう考えても不自然である。我ながら馬鹿げた返しだ。

彼女と言葉を交わし酒を酌み交わして、その最中。
しかし。
自分の目が映すのは彼女であり、彼女でなかった。自分でも、気づかぬほど自然に。自分の思考は一人の少女に満たされていた。
少女の語りかける口調、前を見据える眼差し、皆に向けられる笑顔、小柄な体躯……思い浮かべた姿、その全てが私を魅了する。

こんなにも、一人の少女に惹かれるなんて。かつて兄の嫁に横恋慕し、王都に逃げ出した自分が。可笑しくなる。
けれど、少女もまた自分のものにはならないのだろう。
目の前で睨む彼女、だけではない。いろんな人から愛される少女、そして皆を愛する少女。自分が少女のたった一人になれるとは思えない。仕える優しい王を、裏切ることも。


ふと視線を上げると、月が見える。秀麗殿には陽のほうが似合うかな、と思いながら、全ての想いを断ち切るように、楸瑛は、目を閉じた
ようやく生徒会の仕事が終わった。ほっと息をついた少女は、手早く荷物をまとめると廊下へ出る。
もともとこの一階は教室が少なく、さらに今はテスト前。よってこの静かな廊下には少女の革靴による足音が響くほか、何の音もなかった。
少女が、こんなに高い革靴を上履きにするなんて無駄だとか、今日の晩御飯何にしようだとか、ぼんやり考えながら歩いていたら。


振り乱し喚く高い声と、続いて聞こえた、頬をはたくパシッという鋭い音。校舎裏からだろう。
――痛そう
少女の顔が一瞬引きつる。しかし。
この学校は割合穏やかなもので、先生方は叱っても大抵体罰には至らない。まあ恐ろしく毒舌な先生は若干名いるが…… とりあえず喧嘩もそうそうない。
と、すると。考えるまでもない結論に、ほとんど確信を持って窓の外を見やる。
――あ、相変わらず……っ

窓の外には、生徒会の先輩――楸瑛先輩がいた。女連れの。しかも女子は泣いている。
しかし楸瑛はいつもの読めない微笑を浮かべ、ただ立っているだけ。
「ふざけないで……っ」
女子が叫び走り去るのも、その場にただ佇み眺めている。
そして、角に後姿が消えるとはたかれた頬に手をやりながら……
振り返った。
「やあ、秀麗。どうかしたのかい?」
にっこりと笑い問い掛ける。
「……よくそんな直後にそんなセリフでにっこり話しかけられますね」
一階ではあるが多少離れているため油断していた。そういえばこの先輩は何故か異様に気配に敏いのだ。まあ見つかったのなら仕方ないので、諦めて楸瑛の方へ近づいてゆく。と。
ひらりと開いた窓から楸瑛が入ってきた。スタイルがいいのでなんだか格好いいが。
「なにやってるんですか」
もちろん彼は外履きだ。しかしまたも笑うと。
「秀麗をもっと近くで見たかったから」
一瞬、頬が火照った。いや、照れたとかじゃない。はず。すっと一呼吸して。

「そういうの、やめた方がいいですよ」
一気に吐き出した。
「先輩にわざわざこんな事、差し出がましいでしょうけど。こんな思わせぶりな事して、気まぐれに付き合って、別れて。そりゃみんな先輩に骨抜きで例え遊びでも嬉しいのかもしれませんけど、そのうち嫌われますよ。それに」
一瞬何故か言葉につまって、視線を僅かにずらして慌てて繋ぐ。
「……本当に好きな人ができた時に、信用されませんよ?」
仄かに、笑う気配がした。気がした。
そして。

秀麗は思わず目を見開いた。楸瑛の体が異常に近い。いや……
――抱きしめられてる!?
「そんな真摯な言葉を頂けるとは嬉しいね」
囁かれた言葉にはっと意識を取り戻し、もがいて楸瑛の腕から抜け出す。
「そういうのをやめた方がいいって言ってるんです!」
「さっき別れたのは別に気まぐれじゃない」
割り込むように話し出す。
「自分の心がどこにあるか、やっと分かったから。彼女にも悪いし、愛しい人にも悪い」
秀麗ははっとした。心なしか鼓動が速くなった気もする。なのに、血の気が引いていくような。
「誰ですか?その先輩が本気で好きになったと主張される方は」
皮肉ったつもりがあまり力がなく自分でも驚いた。見抜かれただろうか。
「秀麗、君だよ」
真っ白。秀麗の脳内は一瞬にして空っぽになった。
「……顔、赤いよ?」
「だ、黙ってください!そういうのさらっと言わないでくださいよ!」
――それとも、また一種の口説きテクなのか。
無意識だが白い目で見ていたらしく、楸瑛がはあ、とため息をつく。
「信じてないね……でも愛してるよ、秀麗」
また、秀麗の脳内がフリーズする。
呆けて立ち尽くす秀麗に、くすっと笑いながら楸瑛はまた窓から出て行った。

――まったく、何をやってるんだか。
真っ白な脳内を掠めた言葉に、秀麗は自分でも誰に言っているのか、分からなかった。
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プロフィール
HN:
水音
性別:
非公開
自己紹介:
日本と誕生日一緒な女子。そこらへんにいる学生ですが彩雲国とヒバツナとサンホラを与えると異常行動を起こす可能性があります。
危険物質→楸秀、ヒバツナ、サンホラ
準危険物質→角川ビーンズ、NARUTO、京極夏彦、遙か、新体操
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